それだけが「春」のしるし〜
弟子として迎えた初めての朝は衝撃的だった。
ひんやりとした空気が首回りの布団の隙間から すーっ と入ってきた。
か…顔が痛い…!
昨夜は薪ストーブのおかげでぬくぬく暖かかった部屋も朝方にはすっかり冷めていて、寒さが眠たい私の鼻やほっぺをチクチクと攻撃する。
新しい生活スペースの暖房は自然の暖房、そう、薪で焚く火しかないのだ。どうにか布団から出てストーブに火をつけないと何も始まらない。だけど、出れない!このまま布団から離れたらきっと鼻が硬直してしまうに違いない!
布団の中でうずくまっている私を見ると笑いながらマッチを手に、姉弟子が作業に取り掛かってくれた。
長野県の朝は日本海を面した兵庫県より寒かったのだ。寮でのタイマー付き暖房生活に慣れてしまった私は、これから春までどうやって朝を迎えたらいいのか少し心配になってしまった。
そんな私の心境とは裏腹に、今年はわりと暖かい冬だったという現実。
先生のところへ着いてから一週間ほど経った今、ありがたい事に春の様子が少しづつ伺えるようになってきた。朝はまだひんやりとしているが、布団から出て自分で薪ストーブに火をつける事も出来るようになった。しかも、結構すばやく!人間、身に危機を感じると覚えが早くなるものです。
今月企画されている先生主催の舞台「昼神温泉 冬の陣・和来座」の午前公演へ向けて出発しようと外へ出た朝。びっくりするほど長〜い霜柱を発見した!
ザクザクと踏みならして冬を楽しませてくれる霜柱は決して初めてではないが、こんなにニョキニョキと伸びてるのは見た事がない!男性並みに大きい私の手でも、人差し指くらいの長さ。
先生に聞いてみると実はこれ、春の訪れを記す現象らしい。
氷が?春?どうして?
謎は簡単。冬の間凍っていた地中の水分が、暖かくなってきた日中に溶け、夜にまた凍り土を上へと押し上げて伸びている。本当に寒い冬は水分が溶けることもないから逆に霜柱なんてできないとか。溶ける量が多い分、霜柱も長くなる。だから長い霜柱は日中の温度が上がってきている証拠なのだ!なるほど〜!
さらに凄いのは、この現象が春に向けて畑の土をほぐしてくれる役割も果たしている事!カチカチだった地面が、毎朝霜柱に持ち上げられる事で少しづつほぐされていくのだ。うまくできてるな〜!誰だ、こんな凄い仕組みを発明したのは!
清々しく登る太陽の日差しを浴びながら、長〜い霜柱は再び溶けていき、押し上げられた土が パラッ パラッ っと崩れていく。
そして私の朝も少しづつ起きやすくなっていく。