音で辿る北上への旅

 
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9月1日、朝。今月は、唾液採取で始まった。

起きるなり歯を磨き、何も飲まず、食わず、朝の掃除を済ませて洗面台へ向かった。手には親指ほどの大きさのプラスチックの筒。ここに流し込まれる唾液に、私たちが志の輔師匠の独演会へ出演できるかどうかの運命が託されている。

採取の量は思った以上に多く、途中休みながらも一生懸命梅干しをイメージして最後まで出し切った。プチプチで頑丈に覆われた筒は、朝一で飯田の郵便局へ届けられた。

しかし、結果の知らせがなかなか来ない。出演できるのなら出発はもう翌日だと言うのに、午前、午後、ついには夕方になっても知らせがこない。もう風呂も済ませ、布団へ入ろうとした時に通知がきた。

「全員陰性でした。明日は早朝出発です!」 

朝5:20、長野県阿智村から岩手県北上市への旅が始まった。

出発した時は、これから通るいくつもの土地に、個人的なつながりや、今勉強している芸能・音楽に繋がりを発見する事はまだ知らなかった。

せっかくなのでその発見を、写真や音を添えて解説してみようと思います。


さぁ出発。朝はまだ早く、PCR検査を無事クリアできた事に胸を撫で下ろしながら、お師匠さんが運転するハイエースは日本海へ向かいまっすぐ進み始めた。「出発できただけでも一つの成功だね」なんて呑気な言葉を交わし、弟子二人は後ろの席で早くもウトウトしていた。

気がつけば長野市を通り越し、新潟県に入っていた。ぼんやりと景色を眺めていると、「ここ、前真央ちゃんがバイトしてた辺りじゃない?」とお師匠さん。

そう、地力塾を始める前、3年前の秋、妙高市関山にある関温泉の旅館で、住み込みで働かせて頂いた事があった。

その頃はまだ篠笛を手にしたばかりでした。うろ覚えの阿智黒丑舞のお囃子と教則本を頼りに、休み時間に一階の作業部屋、もしくは少し離れた渓谷の見える山道まで歩いて、紅葉に染まる山に向かって練習した。

関山 2018

人間界の境界に位置すると言われている関温泉では、朝と夕方に山頂から霧が流れるように降り、辺りを神秘的な空気で包み込んだ。ちょうど来月から紅葉が始まるんだろうな。

そんな思い出に浸っていると、ついに海の景色が見えてきた。日本海だ!直ちに窓を開け潮の香りを一呼吸。小腹が空いたので、海が見えるサービスエリアで朝蕎麦をいただく事に。陽がのぼり、気持ちのいい朝だ。海の向こうに佐渡島が見える。

 
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そういえば、新潟の海岸から見る佐渡島と言えば、以前もお話しした「砂山」の曲を思い出す。羽化連の初コンサートでギター奏者の方と笛で合奏させて頂いた曲だ。北原白秋が着想を得た新潟の海辺の景色も、ちょうど9月だったとか。

ではここで一曲。ギターの伴奏はないけれど、生意気にも一人笛二重奏なんかに挑戦してみた。

ごちそうさまでした。

さて、暖かい蕎麦つゆに腹も満たされ、車に戻るともう一眠り。

また海が見えた頃には、もう県境まで来ていた。

山形県に入ると、「真室川」と記された道路標識を見るようになる。

待てよ…真室川って、あの、真室川?

三味線を始めて1年目くらいの頃でしょうか、名古屋でお世話になっている方に「これも挑戦してみて」と「真室川音頭」の楽譜を頂いた。それまでお稽古していた曲よりだいぶ手が忙しく、かなり鍛えられました。もとい、今でも、鍛えられております。

でも歌詞がまた可愛らしくて。

私しゃ真室川の梅の花 

あなたまたこのまちの鶯よ 

花の咲くのを待ちかねて 

蕾のうちから通って来る

どうも私の周りには鶯の気配は全くありませんが、梅の花になった気分で、少し三味線を弾いてみました。

さあ、だんだん近く岩手県!

日本海にひとまずお別れを言い、秋田県を突っ切って東へ向かう。

秋田県の歌はまだ何もお稽古していませんが、秋田と言えばもちろん、お師匠さんの故郷です。最高に美味しい稲庭うどんをいただき、小野小町は何をして有名になったのかいまいち思い出せず、首を傾げながら再び車が発車。

そしてついに岩手県に到着!

北上と言えば鬼剣舞や鹿踊り。芸能の聖地と言っても過言ではないだろう。 

いつかは鬼剣舞や鹿踊りもお見せできるようになりたいのですが、今はまだ身についておりません。ですのでまだまだ稽古不足ですが、無事北上に着きました所で岩手県の民謡を一曲。牛を連れ、何日もかけて旅をする牛方達によって歌われた「南部牛追唄」。普段は唄と尺八で演奏されるようですが、今回は篠笛で。

では、この旅の唄にて志の輔師匠 独演会までへのお話を終わりとさせて頂きます。

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